
狒々
ひひ
別名: 比々、山男
山中に棲む巨大な類人猿の妖怪。怪力で人を攫い喰らうとされるが、酒に弱い弱点がある。各地の山に伝わる山男伝説とも重なる。
- 時代
- 不詳
- 地域
- 全国
- 分類
- 山妖、獣妖
出典
- 『画図百鬼夜行』 鳥山石燕 (1776)

ひひ
別名: 比々、山男
山中に棲む巨大な類人猿の妖怪。怪力で人を攫い喰らうとされるが、酒に弱い弱点がある。各地の山に伝わる山男伝説とも重なる。
狒々(ひひ)は、深山に棲む巨大な類人猿または山の妖怪です。体格は人間をはるかに超え、怪力を持ち、山村に現れては人を攫って食べるとされています。中国の古典「山海経(せんがいきょう)」にも狒々(ひひ)の記録があり、日本には大陸から伝わった後、山男・山父といった独自の山の怪人伝説と融合しながら発展してきました。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にも収録されており、毛深い老人のような姿で描かれています。
狒々の外見は「巨大で毛深い類人猿」というイメージが基本です。ヒヒ(バブーン)という現実の猿の名前と同じ漢字が使われていますが、日本の狒々はアフリカのヒヒよりもはるかに大型で神秘的な存在として語られます。身長は2〜3メートルに達する場合もあり、顔は老人に似ているとも猿に似ているとも言われます。
石燕の絵では、白髪混じりの毛が生えた老人のような顔を持ちながら猿のような体をした存在として描かれており、「山の老いた精霊」というイメージが強く出ています。
狒々に関する伝承で特に興味深いのは「酒に弱い」という弱点です。複数の民話に「村から美女を攫って妻にしようとした狒々が、少女の知恵によって酒に酔わされて退治された」という話型が残っています。狒々は酒の匂いに惹きつけられ、一度飲み始めると酔って動けなくなるとされており、この弱点を利用した英雄譚が全国各地に分布しています。
中国の神話・自然誌では狒々は「人を模倣する怪物」として記録されています。特に「山海経」や「本草綱目」に記述があり、人の声を真似て旅人を驚かせたり、人間の女性を攫って交尾しようとするという恐ろしい性質が描かれています。この中国の狒々像が日本に伝わり、日本独自の山の怪人(山男・山父)伝説と混合することで、現在の狒々伝承が形成されたと考えられます。
狒々は「山男(やまおとこ)」や「大男(おおおとこ)」といった、山に棲む人間大または人間以上の大きさの謎の存在と重なる部分があります。日本各地の山村に「山に大きな毛深い男がいる」という話が残っており、これらは狒々・山男・ダイダラボッチなど様々な呼び名で呼ばれます。一部の研究者はこれらの伝承が絶滅した巨大類人猿の記憶を保存している可能性を指摘しますが、現在は民俗学的な伝承として研究されています。
狒々は山の脅威・野性の力・文明と自然の対立を象徴する存在として、日本の民俗文化に重要な位置を占めています。酒によって退治されるという弱点は、「野生の怪物も文明の産物(酒)に負ける」という教訓を含んでいるとも解釈できます。